関西の寺院3,000の歴史を取材
寺院164件の情報を掲載(2025年10月31日現在)

ホーム > 大阪府 > 金禪寺

大応山 金禅寺だいおうざん こんぜんじ

奈良時代創建、黄檗宗の古刹として豊中の地に伝わる禅寺

所在地 大阪府豊中市本町5丁目3-64
宗派 黄檗宗(禅宗)
本尊 十一面観世音菩薩(大阪府指定有形文化財)
創建 奈良時代・天平年間(8世紀中頃)〈行基菩薩の開創〉
中興 寛文11年(1671年)、鉄眼道光禅師による再興
山号 大応山(だいおうざん)
文化財 国指定重要文化財「三重宝篋印塔」(1349年建立)/ 大阪府指定有形文化財「木造十一面観音立像」(鎌倉時代・正安2年〈1300年〉銘)

奈良時代創建・黄檗宗の古刹 ― 大応山 金禅寺の歴史と由来

大応山 金禅寺は、奈良時代・天平年間(8世紀半ば)に高僧・行基菩薩が開いたと伝えられる古刹です。 当初は「金寺(かなでら)」と称し、七堂伽藍を備えた大寺院で、「千坊」とも呼ばれるほど多数の宿坊を有していました。 戦後の発掘調査では、飛鳥~奈良時代の瓦や塔の礎石が出土し、その創建の古さと寺院規模を裏付けています。 中世には衰退したものの、南北朝時代の貞和5年(1349年)には信徒によって三重宝篋印塔が建立され、 「貞和五年己丑十二月二十六日 一結衆等敬白」と刻まれた銘文が当時の信仰熱を伝えています。

戦国時代には寺運が傾き、天正6年(1578年)の織田信長による伊丹城主・荒木村重討伐の戦火により、 金寺の鎮守社であった豊中稲荷神社とともに伽藍が焼失したと伝えられます。 その後、長い荒廃期を経て江戸時代に再興されました。 寛文11年(1671年)、黄檗宗の名僧・鉄眼道光禅師(鉄眼和尚)がこの地に道場を開き、荒れ果てた金寺を再建。 寺号に「禅」の一字を加えて「金禅寺」と改称し、山号を「大応山」と定めました。 黄檗宗の祖・隠元隆琦の法を継ぐ鉄眼道光は全国に八つの道場を開き、金禅寺はその一つに数えられます。 以後、黄檗宗寺院として隆盛し、地元の檀家や信徒からの厚い庇護を受けて寺観が整えられていきました。

しかし文化3年(1806年)正月、火災により本堂を除く開山堂・経蔵・禅堂・庫裡などの主要伽藍を焼失するという大惨事に見舞われます。 第13世・活禅和尚の代にこれらは再建され、寺は再び復興しました。 明治維新を迎えると、藩政期に寺を支えた旧領主からの庇護が失われ、財政的に困難を極めます。 また神仏分離政策により、長く一体であった豊中稲荷神社とは分離され、金禅寺は純粋な仏教寺院として新たな歩みを始めました。 それでも檀信徒の信仰に支えられ、寺は地域とともに存続を続けました。

昭和期に入ると、金禅寺は文化財としてその価値が再評価されます。 南北朝時代建立の三重宝篋印塔は昭和36年(1961年)に国の重要文化財に指定され、 鎌倉時代・正安2年(1300年)作の木造十一面観音立像も昭和45年(1970年)に大阪府指定文化財となりました。 昭和後期には本堂改修や境内整備が進められ、平成・令和の今日においても、 金禅寺は豊中市を代表する歴史寺院として、地域の人々の信仰と文化の拠点であり続けています。

  • 山門

    金禅寺の山門(表門)は、白壁に瓦屋根を載せた小ぶりながらも風格ある門構えです。 門前の石柱には「不許葷酒入山門(葷酒山門に入るを許さず)」の文字が刻まれ、 肉食や酒を戒める禅宗の戒律を示しています。 住宅街の中に静かに佇む門をくぐると、石畳の参道が伸び、整然と手入れされた境内へと導かれます。

  • 本堂(観音堂)

    境内正面に建つ本堂は寄棟造瓦葺きの堂宇で、平成期に改修され明るく端正な外観を見せています。 正面の丸窓と円柱がモダンな美しさを演出し、内部には本尊・木造十一面観世音菩薩像が安置されています。 この観音像は鎌倉時代前期の作で、高さ約146cm、寄木造による立像。 左太腿部内部の墨書銘から正安2年(1300年)に造立・修復されたことが判明し、大阪府指定有形文化財に登録されています。 優美な造形と穏やかな表情が、古仏の気品を今に伝えています。

  • 三重宝篋印塔(国指定重要文化財)

    本堂前庭に静かに建つ花崗岩製の三重宝篋印塔は、高さ約1.7m、貞和5年(1349年)の建立。 通常一重の宝篋印塔を三段に重ねた特異な形式で、全国的にも珍しい遺構です。 基壇には「貞和五年己丑十二月二十六日 一結衆等敬白」と銘文が刻まれ、 南北朝時代に地域の人々が協力して建てた供養塔であることがわかります。 塔身には阿弥陀如来坐像の半肉彫りや四方の梵字が刻まれ、 優雅な造形美と信仰の力強さが融合した、当寺を代表する文化財です。

  • 水掛不動尊と地蔵菩薩

    本堂右手前には水掛不動尊と地蔵菩薩の石像が祀られています。 参拝者は手水鉢で清めた水を不動明王像にかけて祈願し、無病息災や願い事成就を祈ります。 傍らの地蔵菩薩は地域の子どもたちを見守る守護仏として信仰され、 境内の一隅ながら大切に守られています。 素朴で親しみやすいこの一角は、地元の人々の心の拠り所です。

  • 鐘楼堂

    境内には黄檗宗らしい中国風意匠を取り入れた鐘楼が建っています。 鐘楼には梵鐘が吊るされ、除夜の鐘や法要の際に撞かれます。 大晦日には一般参拝者も鐘を撞くことができ、新年の訪れを告げる音が豊中の街に響きます。 その荘厳な音色は、年の瀬の風物詩として地域に親しまれています。

  • 境内の雰囲気と現代設備

    境内は規模こそ大きくありませんが、整然とした伽藍配置と手入れの行き届いた庭が印象的です。 境内奥には永代供養塔「絆」など近代的設備も整えられ、古刹の趣と現代の利便性が調和しています。 歴史的建造物と新しい施設が共存する空間は、静寂と清潔感に満ち、 参拝者に心の安らぎを与えています。 説明板には金禅寺の歴史や宝篋印塔の解説もあり、文化財を間近に感じながら散策することができます。

← 一覧に戻る